「心頭滅却すれば火もまた涼し」という言葉がありますが、実はこれは誤用。
本当は「心頭滅却すれば火も自ずから涼し」が正解なのだとか。
この言葉を有名にした人物が、戦国時代の僧侶・快川紹喜(かいせんじょうき)です。
快川和尚は甲斐の武将・武田信玄に師事された人物。
信玄の政治軍事の相談役として頼られる存在でした。
ところが武田信玄が亡くなると、
信玄と同じく快川和尚を敬慕していた織田信長が快川和尚を自国に迎えようとしました。
しかし、快川和尚は信玄との節義を通して信長の誘いに応じなかったそうです。
加えて、信長との戦に敗れた六角義定を匿ったことで信長の怒りを買いました。
信長は家来たちに快川和尚を討つように命じ、山門の下に薪を積み上げて一斉に火を放ったのです。
楼上には快川和尚のほかに100余名の僧が集まっていました。
皆で最期の覚悟をし、袈裟をまとって坐しました。
そこで快川和尚は僧らに「燃え盛る炎に囲まれているこの場にあって、
皆さんは仏法に適うどんな一語を発しますか」と語り掛けます。
僧らは一人ずつその境地を述べ、最後に快川和尚が自らの心を皆に伝えました。
「安禅は必ずしも山水をもちいず。心頭滅却すれば火も自ずから涼し
(安らかな禅は、必ずしも安らかな場所を必要としない。
逃れたいという考えや気持ちを消し去れば、火の中にあっても心は安らかである)」
火は涼しいと感じるのではなく、身体を焼き尽くすほど熱いもの。
そんな火でさえ焼けないものこそが「心」です。
快川和尚は、火の熱さをありのままに受け止める静かな澄み切った心境を
「涼し」と表現したのではないでしょうか。
ありのままを受け取ること…これが禅の根本だそうです。
夏、禅に触れて涼やかな心を持つことも素敵なことだと思います。
酷暑が続いております。
体調管理には十分にお気をつけて、お健やかにお過ごしください。
久郷直子